アメグロ-米国グロース企業研究所

外資系コンサルティングファーム出身者が、MBAの学びを活かしながら、アメリカのグロース企業を紐解きます。

徹底レビュー!Beyond Meat(ビヨンド・ミート)の将来性を紐解く

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この記事でわかること

  • ビヨンド・ミートのビジネスモデルは?
  • ビヨンド・ミートの強みは?
  • ビヨンドミートの将来性は?

 

「ビヨンド・ミート」ってどんな会社?

ビヨンド・ミート。そのまま和訳をすると「肉を越えて」。

いったい何が「肉を越えて」いるのか。

実はビヨンド・ミートは、食肉の代わりとなる「代替肉」を提供している会社なんです。

植物由来のタンパク質によって、食肉と同様の触感を再現されているそうです。

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Beyond Meat, Inc. 2020 Fourth Quarter and Full Year Conference Call(https://investors.beyondmeat.com/events-and-presentations/)より

しかも、肉汁らしき部分まで再現されているとのこと。

そういった「代替肉」を提供する企業が世界で初めて上場に成功したと話題になりました。

それが、本日ご紹介するビヨンド・ミートです。

なぜ代替肉が注目されているのか?

…でも待ってください。

  • 普通に肉を食べればいいんじゃないんですか?
  • どうしてそんなに代替肉の企業が注目されてるんですか?

こんな疑問を抱かれている方もいらっしゃるかもしれません。

代替肉が注目されている理由は大きく2点あります。

環境へのダメージを減らすことができるから

まず1番大きな理由が「環境へのダメージを減らせるから」です。

データでわかる 2030年 地球のすがた』を読むと、次のことが書かれています。

可食部1キロを食卓まで運ぶのに必要な飼育や加工、物流工程など一連の工程から出る二酸化炭素の量は、大豆に比べ牛肉は13倍、豚肉で6倍、鶏肉でも3.5倍多い。

特に牛は、主食の草を消化するために、胃の中に嫌気性細菌を宿している。この細菌は、草を分解する過程でメタンガスを発生させ、これがゲップとして体外に排出される。そのため二酸化炭素排出量が増えてしまう。

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大豆と牛肉では、二酸化炭素の排出量が13倍も違う。

これは衝撃的な数値ですよね。

SDGsなどのキーワードが注目されつつある今、二酸化炭素排出量削減の目玉の1つとして、代替肉が注目を浴びているわけです。

ビーガン=菜食主義者の存在

代替肉が注目されている2点目の理由は、ビーガンと呼ばれる菜食主義者のニーズにマッチしているからです。

1点目の理由も影響して、ビーガンのマーケットは拡大傾向にあります。

代替肉などのビーガンフードの市場規模は、今後も増えていく予測が立てられています。

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Vegan Food Market Size & Growth | Industry Report, 2025(https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/vegan-food-market)より

以上の理由から、代替肉企業で世界で初めてIPOしたBeyond Meat(ビヨンド・ミート)が注目を浴びているわけです。

収益構造はどうなっているか?

では、注目を浴びているのはいいとして、本当にビヨンド・ミートの代替肉は売れているのでしょうか?

まずざっくり、収益の伸びを見てみると、2017年から2020年にかけて年平均成長率132%で成長しています。

これは驚愕の数値ですよね。

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Beyond Meat, Inc. 2020 Fourth Quarter and Full Year Conference Call(https://investors.beyondmeat.com/events-and-presentations/)より

この収益の伸びをもう少し紹介に見ていきます。

どうやらRetail=小売店からの売上が大幅に増えているようです。

コロナ禍でレストランなどのFoodserviceの売上が落ちるなか、小売店の開拓に全力を注ぐあたりは、ビヨンド・ミートの思い切りの良さを感じます。

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Beyond Meat, Inc. 2020 Fourth Quarter and Full Year Conference Call(https://investors.beyondmeat.com/events-and-presentations/)より筆者作成

では、なぜここまでビヨンド・ミートの売上が上がったのか。

色々と要因はありますが、「ブランド認知率の向上」も大きな要素だと考えます。

以下の図は『確率思考の戦略論』で示されているフレームを少しアレンジしたものです。

売上のキードライバーを特定するときは「認知率×配荷率×試用率×リピート率」と因数分解するのが定石です。

この中の認知率を見てみます。

Beyond Meat, Inc. 2020 Fourth Quarter and Full Year Conference Callによると、ビヨンド・ミートのブランド認知率がIPO時の23%から、現在は59%に上がっています。

なんと2倍以上。

仮に認知率以外の指標が一定とすると、認知率が2倍になれば、理論的には売上も2倍程度上昇するはずです。

実際にビヨンド・ミートの売上を見てみると、IPO時の2019年から2020年にかけて、売上が37%上昇しています。

おそらく、ブランド認知率の上昇に、配荷率・試用率・リピート率が追い付いていない状態なのだと推測できます。

今後のビヨンド・ミートの動きが気になるところですね。

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コスト構造はどうなっているか?

次にコスト構造や収益性を見てみます。

実は、売上が伸びていると同時に、営業利益率は低下しています。

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ビヨンド・ミートの財務シート(https://investors.beyondmeat.com/news-releases)より筆者がデータを集めて作成

では、この営業利益の悪化はどうやってもたらされているのか。

まずは、売上原価がコストの大部分を占めていることがわかりますね。

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ビヨンド・ミートの財務シート(https://investors.beyondmeat.com/news-releases)より筆者がデータを集めて作成

まだまだ代替肉を製造するのにかかるコストは大きいと言えそうです。

例えば、売上と売上原価率の関係を見てみましょう。これを見ることで、「代替肉をたくさん作っていく中で、製造コストをどれだけ効率化できているか」がわかります。

どうやら、売上原価率60%付近までは改善できていることがわかります。5年前は売上原価率が140%だったことを考えると、大きな進歩です。

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ビヨンド・ミートの財務シート(https://investors.beyondmeat.com/news-releases)より筆者がデータを集めて作成

今後、ビヨンド・ミートが収益性を上げるためには、どれだけ代替肉を製造するコストを圧縮できるかにかかっています。

この後の動きから目が離せませんね。

ビヨンド・ミートは長期的に成長していくのか?

ここまでビヨンド・ミートの概要や財務データを概観してきました。

  • では、そんなビヨンド・ミートは今後も長期的に成長し続けられるのでしょうか?
  • 今後も長期的に成長し続けるか否か、どうやって判断すればよいのでしょうか?

実は、これらの問いに答えてくれる良書がございます。

それが『教養としての投資』です。

この本では、次に3点の問いが設定されています。

  1. 「本当に世の中にとって必要か?」という問いに答えられるか?
  2. 今更その人たちの向こうを張って勝負しようだなんて、誰も思わないほど圧倒的な競争優位を持っているか?
  3. 不可逆的なトレンドに支えられているか?

以下、順番に考察していきます。

「本当に世の中にとって必要か?」という問いに答えられるか?

この問いに答えるためには、まず「ビヨンド・ミートが明日から存在しなくなった世界」を想像してみましょう。

まだ発展途中にありますが、代替肉が食肉と遜色ない触感や味を実現できるようになったら、いよいよ世界に必要不可欠な存在となるでしょう。

代替肉が環境問題解決に与える影響は計り知れません。

今後も人口が増えている世界全体にとって、食料問題や環境問題解決のために、ビヨンド・ミートが提供する代替肉は大きな価値を持っているといえます。

今更その人たちの向こうを張って勝負しようだなんて、誰も思わないほど圧倒的な競争優位を持っているか?

次に、競争優位性を見てみます。

結論から述べると、ビヨンド・ミートまだ、世界で絶対的な地位は築けていないと考えます。

まず、世界の代替肉市場の規模を見てみましょう。

諸説がありますが、2019年時点では、代替肉市場の規模は約4,500百万ドルです。

一方、ビヨンド・ミートの2019年時点の売上は約300百万ドル。

そのため、ビヨンド・ミートは世界の代替肉市場の約6%程度のシェアしかおさえきれていません。

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Meat alternative market(https://www.vegansociety.com/news/market-insights/meat-alternative-market)より

他の企業を見渡すと、アメリカのスタートアップ企業「インポッシブル・フーズ」も台頭してきています。

また、他の大手食料品メーカーも、代替肉市場への参入を狙っているかもしれません。

「他社が実現できないような圧倒的低コストな代替肉」を生産できるケイパビリティが備われば、競争優位性が築けたと言えるかもしれませんね。

もうしばらくは、ビヨンド・ミートや競合他社の動きを注視しようと思います。

不可逆的なトレンドに支えられているか?

不可逆的な長期トレンドには下支えされていると考えます。

少なくとも、以下のトレンドは、『データでわかる 2030年 地球のすがた』をはじめとした色々な著書や文献で指摘されています。

  • 世界の人口は増えていく
  • 二酸化炭素の排出量削減は今後も重要課題であり続ける
  • 貧しい国々だけでなく、先進国も食料危機に巻き込まれ始める

上記の社会課題のソリューションの1つが、代替肉でありビヨンド・ミートの存在なわけです。

代替肉市場は、不可逆的なトレンドを味方につけて、今後も成長していくと考えます。

このトレンドを追い風にして、ビヨンド・ミートが収益性をどうやって担保していくのか、これからもウォッチできればと思います。