徹底レビュー!Salesforce(セールスフォース)の将来性を紐解く
この記事でわかること
- Salesforce(セールスフォース)のビジネスモデルは?
- Salesforce(セールスフォース)の強みは?
- Salesforce(セールスフォース)の将来性は?
「Salesforce(セールスフォース)」ってどんな会社?
セールスフォースは、クラウドのCRM(顧客情報管理)システムを提供する会社です。
例えば…
- 顧客がWebページの登録フォームを入力すると、フォームに入力された情報がセールスフォースに蓄積される。
- 顧客がWeb上で見たページに応じて、スコアリングがされる。トップページを見たら1点だけど、見積ページを見たら10点…的な感じ。
- スコアの高い順に顧客をリスト化し、商談のアポイントを取る。アポイント担当や商談情報も一元管理されている。
…この一連の業務の流れを、おそらくほとんどの企業(特に大企業)は、セールスフォースを使って行っているのではないでしょうか。
収益構造はどうなっているか?
セールスフォースは、流行りの「サブスクリプションモデル」を採用しています。
セールスフォースのシステムのアカウント1つあたり、月額で請求するモデルですね。
システムにどれくらいの機能を求めるかによって、以下のような価格差があります。
Unlimitedはなんと月額36,000円/人。
そしてその左には、Enterpriseが月額18,000円/人で提供されています。
「人間は、選択肢の真ん中を選びたがる」という心情心理を捉えた価格設定ですね(笑)
CAGRが25%超えの成長?
さて、そんなセールスフォースの収益情報を見てみましょう。
創業して15年以上経過しますが、今年も売上が前年の24%増というすさまじい結果です。
10年間にレンジを拡げてみても、CAGR=年平均成長率は25%越えです。
コスト構造や収益性はどうなっているか?
続いてコスト構造や収益性を見てみます。
売上の拡大にともなって営業利益率も上がっている構図なのか…と思いきや、実は違いました。
2020年度も営業利益率は2%程度…20%とかを余裕で超えていそうな印象でしたので、これは以外な数値でした。
ここで重要なのが、以下の点です。
- この数字はセールスフォースの意図通りなのか?
- この数字は本当にセールスフォースの収益性の実態を示しているのか?
この2点を見ていきましょう。
腰が引けるレベルで、攻めのマーケティング・営業をしている
セールスフォースのコスト構造を見てみると、「Marketing and sales=営業費用」が売上の約半分を占めているのがわかります。
- 最先端のマーケティングテクノロジーの活用
- 優秀なスタッフによる営業への人材投資
- 大規模の営業イベントの開催
こういった思い切ったマーケティング・営業が功を奏し、長年高い成長率で売上を伸ばしているんだと思います。
逆にいうと、この営業費用を出し惜しみすると、今の成長スピードは止まってしまう可能性もあります。
標準の会計基準は、サブスクリプションモデルの収支を正しく表現できない?
もう1点肝心なのは、上記の数字が「正確にセールスフォースの実態を示しているか」です。
上記の数値はGAAPのルールに沿って集計されたものです。
実は、GAAP(Generally accepted accounting principles)と呼ばれる、世界標準の会計概念では、このサブスクリプションモデルの正確な収支を表現するのは難しいと言われています。
なぜGAAPだとサブスクリプションの収益を表現しにくいのかについては、以下の記事でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はご覧ください。
では、Non-GAAPで集計をし直すと、営業利益率はどうなるのか?
以下のチャートを見てみると、営業利益率は15%超えでキープできていることがわかりますね。
以上のように、「実態を正しく把握できるものの見方はどれなのか?」を意識しながら数字を読み解かければなりません。
ここが難しくもあり、面白さでもありますね。
セールスフォースはなぜ強いのか?
では、なぜセールスフォースはここまで高収益・高成長を実現できているのか。
この論点を考えるためには、セールスフォースをはじめとした「サブスクリプションモデルの収益モデル」を理解する必要があります。
以下の図で示すように、サブスクリプションモデルのドライバーは「解約率を下げる」「顧客単価を増やす」「営業費用の効率を上げる」の3つだと考えます。
解約率を下げる
セールスフォースは、標準サポートだけでなくプレミアムサポートもアドオンで行うことで、顧客がSFDCを使いこなせるよう支援しています。
また、この企業で募集されている職種を見てみると、ユーザートレーニングを実施する職種も募集されていたりします。
加えて、セールスフォースが、色々な企業に対して「解約阻止、退会阻止といったリテンションのソリューション」をイベントや営業で提案しています。
この点に鑑みると、セールスフォース自身も、優れたリテンションの仕組みを有しているという仮説を持っています。
顧客単価を増やす
セールスフォースは顧客単価も効果的に増やすことができていると考えます。
まず、プレミアムサポートやAppExchangeなどを通して、アドオンのサービスを複数提供しています。
また、Sales Cloud、Service Cloudなど、高単価のサービスへのUpgradeを営業できる体制を持っています。
実際にSales CloudやService Clousに触れてみると、営業あるいはコンタクトセンターに特化した機能が標準的に備わっています。
「あれだけ高い単価を打ち出しているのも納得できる」と言えるレベルのサービスです。
営業費用の効率を上げる
セールスフォースの募集職種を見てみましょう。
「インサイドセールス」や「フィールドセールス」が募集されていることから、彼ら彼女らがどんな営業をしているかが透けて見えてきます。
セールスフォースは、見込み客獲得はインサイドセールス、見込み客獲得以降をフィールドセールスが担当するなど、効率の良い営業を実施しているのではないでしょうか。
こういった仕組みを、まさにセールスフォース自身がセールスフォースを使い倒して実施しています。
「セールスフォースを一番使い倒しているのは、セールスフォース自身である」
ここが彼ら彼女らの強みなのかもしれません。
セールスフォースは長期的に成長していくのか?
ここまでセールスフォースの概要や財務データを概観してきました。
- では、そんなセールスフォースは今後も長期的に成長し続けられるのでしょうか?
- 今後も長期的に成長し続けるか否か、どうやって判断すればよいのでしょうか?
実は、これらの問いに答えてくれる良書がございます。
それが『教養としての投資』です。
この本では、次に3点の問いが設定されています。
- 「本当に世の中にとって必要か?」という問いに答えられるか?
- 今更その人たちの向こうを張って勝負しようだなんて、誰も思わないほど圧倒的な競争優位を持っているか?
- 不可逆的なトレンドに支えられているか?
以下、順番に考察していきます。
「本当に世の中にとって必要か?」という問いに答えられるか?
この問いに答えるためには、まず「セールスフォースが明日から存在しなくなった世界」を想像してみましょう。
おそらく、ほとんどの企業の業務が成立しなくなるのではないでしょうか。
例えば、社内の管理部門に何かを申請するときのシステム。
あれも、実はセールスフォースで作られていることがあります。
そうやって、私たちの日常業務に溶け込んでいるシステムなわけです。
一方で、私たちの業務に溶け込んだセールスフォースを解約するのは難しいですよね。
これも、「導入はしやすいけど、解約はしにくい。なぜならば、気づいたら必要不可欠になっているから」というセールスフォースの戦略のせいですね(笑)
今更その人たちの向こうを張って勝負しようだなんて、誰も思わないほど圧倒的な競争優位を持っているか?
次に競争優位性を見てみましょう。
これについては、以下のページを見てもらえれば一目瞭然です。
- CRMアプリケーション分野で世界シェアNo.1
- セールスアプリケーション分野で世界シェアNo.1
- カスタマーサービスアプリケーション分野で世界シェアNo.1
- マーケティングアプリケーション分野で世界シェアNo.1
…ぐうの音も出ませんよね。
この優位性を覆すのは相当困難です。
例えば、競合他社が「カスタマーサービスのシステムをAに変えませんか?」と提案してきたとします。
確かに、カスタマーサービスだけ切り取ってみれば、「Aシステムが便利」というケースもあり得るでしょう。
しかし、自社のシステムを見てみると、カスタマーサービスもセールスもマーケティングも社内申請系も全部セールスフォースで一元化されているとします。
すると、カスタマーサービスのシステムだけを入れ替えるのは、システム全体で見れば不効率になってしまうんですね。別々のシステムを連携させるのは、すごく手間なんです。
「それぞれちょっと不便な部分もあるけれど、でも、どの機能も全部セールスフォースで完結するから便利」
これがユーザーの本音なわけです。
不可逆的なトレンドに支えられているか?
最後に、不可逆的なトレンドを見てみます。
セールスフォースの顧客は企業なので、「顧客となる企業や就業者の人数が、今後も増えていくかどうか」を見ていく必要があります。
例えば、セールスフォースの本丸があるアメリカの企業数について。
5年ほど前のデータですが、この記事によると、上場企業数は減っているものの、非上場も含めた企業数は微増しています。
廃業数よりも起業数の方が上回っていることからも、アメリカの企業数は増えていると考えてよいでしょう。
考えてみれば、アメリカのように人口が増えていくマーケットは、消費者が増えるのに伴い、ビジネスの規模も拡大していくはずです。
とすると、人口増のマーケットでは、ビジネス拡大とともに、企業数あるいは就業者の数は増え続けるといえるでしょう。
以上を踏まえると、セールスフォースのターゲットとなる顧客の数は、今後も増えていくのではないでしょうか。
毎年二桁%以上の増収を続けているセールスフォースの成長が今後も続いていくのかどうか、見ものですね。